環境教育

コラム

2013年12月から2015年7月まで、新聞に連載されていたコラムです。

第1回

はじめまして

 「いきものいんく」の「いんく」は、英語の「inc.(incorporatedの略)」で、法人企業という意味です。西胆振の小・中学校をまわり、教室や職員室に図々しく我が物顔で出入りするうえ、総合的な学習の時間や理科の時間などをぶんどって生物多様性(これについては別な機会に)や外来生物問題など、「生きものどうしのつながり」をテーマに環境教育」を実施しています。生きものについて授業をする法人なので「いきものいんく」。1年生でも読めるように全部ひら仮名にしちゃおう… といった感じでこんな名前になりました。
 子どもの頃から生きものが大好きで、少年野球の練習中も、ボールより周辺の草むらや森に潜んでいるだろう昆虫が気になって仕方がありませんでした。タモ網なんて持っていなかったから、調理用のザルを片手に友達と近所の川に入って魚やミズカマキリをつかまえたり、自転車で遠くの森(校区外だったのでルール違反かな…)まで出かけクワガタをつかまえたり… とにかく「動くもの」なら何にでも興味があり、イラガの幼虫(毒があります)を素手でつかまえ、刺された指をブクブクに腫らしながら自宅に持ち帰ったりしていました。
 学校と関わっているとはいえ、僕は教員でも研究者でもないし、そもそも人に何かを教えられるような立派な人間ではありません。強いて言うなら、教員でもないのに結構な数の授業を持ち、小学生でも学校職員でもないのに結構な頻度で給食を食べている不思議な立場にあるということ(しかも室蘭市、伊達市、壮瞥町、洞爺湖町、豊浦町、5市町の給食を食べられます)。そんなちょっと風変わりな立場から、自然と生きものと子どもたちとの関わりのなかで感じる環境教育についてのあれこれと、身近な生きものの不思議について、気の向くままにつづっていこうと思っています。しばらくのあいだお付き合い下さい。

川や森や湖など…身近な自然と生きものが先生。

第2回

「環境教育」って?

  初めてお会いした方に「どんなお仕事を?」と聞かれると、いつも返事に困ります。「環境教育をしています」と答えると、たいていの場合「環境教育…ですか?」と返ってきます。  「環境教育」って… なんでしょう? 実は自分でもよくわかりません。よくわからないのですが、相手の頭にハテナマークが浮かんだあとは「小学校で自然や生きものについての授業をしています」と加えるようにしています。それでもやっぱり「はぁ。自然…ですか…」と理解していただけたのかどうなのかよくわからない気のない返事がほとんどです。
 「子どもたちにとってどんな効果が?」と聞かれることも多いですが、いつも外を駆け回り、野生動物を追いかけている子の何が良くて、いつも家でゲームをしている子の何が良くないのか… これもまたよくわからないというのが正直なところです。前回もお話したように、僕は教員でも研究者でもなく、環境教育に対する立派な理念などを持ち合わせてはいません。
 でもなんとなく…なんとなくだけど、身近な自然や野生動物や、そこで起きている人間が原因の環境破壊を知ることで、子どもたちが優しくなる気がします。自然にも野生動物にも、そして人間にも。
 最近は深く考えることすらしなくなりました。そんなアバウトな感じで、なんとなくでいいかなと。野生のトカゲやヘビを見せ、追い掛け回し、捕獲して手にとった時の子どもたちの嬉しそうな顔が好きです。普段は僕の言うことになど耳を貸そうともしないヤンチャ坊主が、セミの羽化の瞬間を食い入るように見つめる眼差しが好きです。
 「便利」を追求し、たくさんの自然を破壊し、たくさんの生きものを滅ぼしてきた人間。半強制的に環境破壊という課題を背負わされた子どもたちに、ひと粒でも多くの種をまくことが、今の僕にできることかなぁと思っています。

セミの羽化を観察する子どもたち。いつになく真剣なまなざし。

第3回

「つながり」を学ぶ

 授業では、生物多様性や外来生物問題などを取り上げています。生物多様性。聞きなれない言葉です。簡単に言うと…地球上には様々な環境があり、その環境の中で様々な生きものが暮らし、みんながつながり合うことで自然のバランスが保たれているんだよ、ってことです。僕たちが生きるために必要な酸素、水、食べ物や薬など、全て生物多様性、この「つながり」から生まれています。この絶妙なバランスは人間が手作りできるものではありません。何万年、何億年という想像もつかないくらい永い年月をかけ、数え切れないほどのたくさんの生命をつなぎ合って育まれたかけがえのない調和です。
 それなのに僕たち人間は、便利で豊かで快適な暮らしを手に入れるために、たくさんの環境を破壊し、たくさんの生きものを絶滅させてきました。どうしても木を切らないといけなかったの? どうしても川を真っ直ぐにしなければいけなかったの? どうしても外国から生きものを持ってこなければいけなかったの? 必要以上に自然を崇拝するのは嫌いです。僕だって電気を使わないと仕事もできないし、排気ガスをまきちらして車を走らせているし、ジャンクフードもばりばり食べます。でもやっぱり、人間はもう少し自然環境や野生動物に対して関心を持ち、それらのつながりによって生かされていることを意識するべきではないかと思います。
 人間がどれほど身勝手な生きものなのかを知ってもらうところから授業を始め、常に「つながり」に意識が向くように導いていきます。野外では、基本的に子どもたちを野放しにします。本当にギリギリのラインまで「危ないからダメ」とは言いません。あとはちょっときっかけを与えるだけで、子どもたちは僕なんかよりはるかに広い視野とはるかに豊かな感性で、いろいろなものを発見し、感じていきます。
 それで本当に環境が守られるのか、この授業がその子にとってどんな効果があるのかなんてわからないまま… 川に飛び込み、野生動物を追いかけ回し、歓声をあげる子どもたちを眺め、楽しく授業させてもらっています。

生きものの写真やマグネットを使い、
「つながり」について学ぶ。
野生にかえる子どもたち。
昔も今も、子どもの本質は変わらない。